代わりがないもの




ネットニュースを見ていて気になる画像がありました。

だいぶくたびれて、薄汚れた灰色になったうさぎのぬいぐるみを

道で拾った人が持ち主を探すためSNSに投稿した画像。

長い間誰かが(たぶん子どもが)ずっと可愛がっていたのでしょう、

うさぎのぬいぐるみは中の綿が痩せてちょっとヨレっとした感じです。

見つけた人も誰かの大切なものと思い、持ち主に返してあげたかったようです。


その灰色のうさぎの画像を見たとき、心がキュッと切なくなりました。

そう、その気持ちわかるよ!

だってわたしにも大切なぬいぐるみがあるから!

可愛いがり過ぎて、どこにでも持って行くから無くしてしまったんだね…。


ニュース記事の後半、SNSで拡散しても持ち主が見つからずにいたところへ、

ぬいぐるみ修繕のスペシャリストという人がクリーニングと修理を提案してきました。

灰色だったボディーは淡いラベンダー色に戻って、綿を詰めてリボンも付けて、

まるで新品みたいにキレイになって、持ち主が現れるのを待っています!と。


…えっ。それって一番やって欲しくないやつ、とわたしは思うんですけど。

多分そのうさぎは、持ち主の心の友で、大切な相棒。

捨てたわけじゃないなら、知らない人にカスタマイズされるなんて逆に悲しいと思うのですが。

大人になってから手に入れたものなら、それはそれで面白いと考えられるかもしれないけど。

手垢で汚れていた姿の方が、愛されていたことが誇らしげで良かったなあ。

まあその人も親切心で修理したのだし、わたしのような考えばかりじゃないでしょうけれど…。



ぬいぐるみの話とはだいぶ違いますが、

もう随分前に制作したネックレスを今も大切に使ってくださっているお客様から、

ネックレスに通している革紐の交換依頼が何年かおきにあります。

そのネックレスは紐が抜けない造りになっていて、お客様には交換が難しいからです。

使っているうちに革紐が傷んでくることは当然考えられるのに、

金具を取り付けると紐が抜けなくなるって…配慮が足りなかった、

当時の自分は未熟でごめんなさい。


交換時はご本人から、クリーニングはしないで欲しいとのご要望が必ずあります。

長い年月の使った証を消したく無いというお気持ちを汲んで

紐交換の時はそ〜っと、絶対に磨かないように気をつけます。

触っているうちについ"磨けて"しまうので、磨かないのは意外と難しいのです。


ジュエリーは使う人の思い入れが強くある場合が多く、

傷や歪みも人によっては大切なものであるわけです。

経年劣化ではなく思い出に近いものだと思います。

もし消してしまったらもう元に戻せないし、代わりが無いものだから

わたしが作ったものであっても、人の手に渡ったらその人のもの。

人のものは取り扱いを慎重に!